PTA研修企画部主催「フレンチ料理教室」を開催

3月23日(日)、PTA研修企画部主催による研修会として、フレンチ料理教室を開催しました。(秦)

講師は、杉本泰隆 氏です。

芽室町内で愛され、全国各地からもお店の味を求めて訪れるファンが多いイタリアン&フレンチレストラン「calme’n」の元オーナーシェフであり、現在は、帯広の中心街で「nil calme’n」として新たにお店をオープンさせました。

今回は8名が参加し、和やかな雰囲気の中で実施され、お家でも簡単”リゾット、サラダ、ポタージュスープ”を作りました。

「究極のコース料理」を探究テーマにしている総合コースの生徒2名も参加しました。

 

「料理はもっと自由でいい」——ミシュラン店出身シェフに学ぶ、日常を豊かにする6つの視点

1. 導入:私たちは「料理」を難しく考えすぎていないか?

キッチンの前に立つとき、私たちの肩には「家事」という名の重い荷物が乗っています。栄養バランス、彩り、そして「正解」を求められるレシピの呪縛。しかし、料理の本質とは本来、もっと軽やかで、知的な悦びに満ちたものであるはず。ミシュラン星付きレストランの厨房で研鑽を積み、フランスやイタリアの食文化の深淵に触れてきた私の目から見れば、日本の家庭料理は少し「真面目すぎる」のかもしれません。

料理とは、完璧な成果物を出すための義務ではなく、素材と対話し、誰かを想う創造的なプロセスです。今回は、プロの合理性と哲学を家庭のキッチンへ翻訳し、日常の景色を鮮やかに塗り替えるための「6つの意外な視点」をお届けできればと思います!

2. 衝撃の原体験:フランスの家庭料理は「シンプル」の極みだった

私の料理人としての原点は、19歳の時に経験したフランスでの生活にあります。当時は料理を志していたわけではなく、いわば「放り込まれる」ようにして現地の食卓に座りました。そこで出された夕食は、私の既成概念を根底から覆すものでした。

メインはうずらのロースト、そこにポテトとサラダ。ただそれだけです。しかし、その力強さと潔いまでのシンプルさに、私は言葉を失いました。「今まで自分が美味しいと思っていたものの規模がいかに小さかったか」を突きつけられたのです。

「そこでお料理がすごい良いなと思って。……自分をロングスパンで考えた時に、最終目標として自分のお店をやることを目標とした」

この時、素材の扱い方ひとつで世界が変わることを知りました。例えば、付け合わせのジャガイモひとつとっても、プロの知恵があります。ホクホクとした食感を楽しみたいなら、塩を入れずに茹でること。逆に塩を加えて茹でれば、デンプンが引き出され、ねっとりとした粘り気のある質感になります。こうした「なぜそうなるか」という論理(セオリー)を知るだけで、シンプルな料理は一気に奥行きを増すのです。

3. 「ドレッシングは分離していい」——乳化の呪縛を解く

家庭料理でよく聞く「乳化」という言葉。パスタやドレッシングにおいて、水と油を完璧に一体化させなければならないという強迫観念がありますが、実はプロの視点はもっと現実的です。

科学的に言えば、ドレッシングやパスタのソースが完全に乳化し続けることは稀です。あれは「乳化」というより、分子を限りなく細かくした「分散(ディスパーション)」の状態に過ぎません。時間が経てば分離するのは自然な物理現象なのです。「分離したら、また振って分散させればいい」。そう考えるだけで、キッチンでの焦りは消えるはずです。

もし、少しでも状態を安定させたいなら、つなぎ役となる「乳化剤」の力を借りましょう。粒マスタードや、細かく刻んだ紫玉ねぎを加えるのがプロのテクニック。これらが水分と油分を優しく結びつける橋渡しとなり、素材に美しくドレス(コーティング)されるソースへと導いてくれます。

4. 魔法の調味料:安価なバルサミコ酢を「メイプルシロップ」に変える方法

高級なバルサミコ酢の芳醇な甘みは、長い年月をかけた「熟成」によって生まれます。しかし、家庭で高価なボトルを常備する必要はありません。化学的な結果が同じであれば、別のプロセスで代替すればいい——それがプロの合理主義です。

スーパーで売っている安価なバルサミコ酢を、手鍋で元の量の1/3まで煮詰めてみてください。「熟成」という時間のエネルギーを、「加熱」という熱のエネルギーに置き換えるのです。

水分を強制的に飛ばし、酸の角を丸くすることで、バルサミコはまるでメイプルシロップのような濃厚な甘みを持つ万能ソースへと変貌します。これに醤油を合わせれば極上のステーキソースになり、そのままデザートに垂らしても素晴らしい。プロの知恵とは、時間をお金で買うのではなく、物理的なアプローチで補うことにあるのです。

5. 捨てないで!「野菜の端材」こそが最高の出汁(だし)になる

プロの厨房では、素材を「捨てる」という行為に極めて慎重です。玉ねぎの皮、じゃがいもの皮、ブロッコリーの芯——これらは「ゴミ」ではなく、旨味と色彩の宝庫です。

例えば、玉ねぎの皮を煮出すと、プロのコンソメのような深い黄金色が抽出されます(布を染められるほど強い色素です)。じゃがいもの皮は豊かな旨味と適度な「とろみ」を、ブロッコリーの芯は凝縮された栄養と甘みを与えてくれます。特にブロッコリーの栄養を逃さないコツは、実は「生」で食べること。茹でたり蒸したりすると栄養は逃げ出しやすいため、芯の柔らかい部分を薄くスライスしてサラダに混ぜるのが最も理にかなっています。

こうした端材を煮出し、市販のコンソメを少量加えるだけで、スープの味は劇的に向上します。プロが「エコノム(縦型ピーラー)」で丁寧に皮を剥くのは、その先の「再利用」を見据えているから。生産者への敬意を払いつつ素材を使い切るという姿勢は、結果としてあなたの料理を「プロの味」へと昇華させます。

6. フランス流のメリハリ:平日は「頑張らない」のが正解

日本の主婦の皆様が毎日数品の料理を手作りする姿は、フランス人の目から見れば驚異的な献身に映るでしょう。フランスの日常には、もっと鮮やかな「メリハリ」があります。

平日は「トレトゥール(惣菜屋)」やデパ地下のような既製品を賢く利用し、皿に移し替えることすらせず、ワインと共に静かに楽しむ。その代わり、日曜日は全く別の顔を見せます。普段は料理をしないお父さんが、生地からこだわってクレープを焼き、家族のために情熱を注ぐ。

「その辺に置いてあるもの食べな!」

このフランス的な(愛情ある)放任主義は、決して怠慢ではありません。毎日100点を目指して燃え尽きるよりも、料理を嫌いにならないための知恵なのです。たまにはお惣菜に頼り、週末にだけ「今日は何を作ろうか」とワクワクする。その心の余裕こそが、料理を美味しくする最高のスパイスです。

7. 「コース料理」の真意:たった一人の「誰か」を想うこと

「コース料理」と聞くと、格式高いレストランを想像するかもしれません。しかし、私の哲学では、コースの定義は「形式(オブジェクト)」ではなく「対象(サブジェクト)」にあります。

母親が「あの子はエビフライが好きだから」とメインを決め、それに合うスープやサラダを組み合わせる。その瞬間、それは世界で唯一、その人のために設計された究極のコース料理になります。

「自分だけのためにコースを……作ってもらってるものは、もう何でもコースだと思う」

大切なのは、技術を誇示することではなく、「誰に届けたいか」を想像し、その人の好みに寄り添うこと。相手を想う「意図」があれば、ラーメン風のパスタであっても、それは立派なコースの主役になり得るのです。

8. 結び:明日のキッチンが少しだけ楽しみになるために

料理は、決してあなたを縛る鎖であってはなりません。 野菜の皮に宿る生命力を愛で、時にはお惣菜で肩の力を抜き、ソースが分離しても笑って振り直す。そんな自由で知的な遊び心が、キッチンを豊かな彩りで満たしてくれます。

料理とは、素材との静かな対話であり、大切な人の笑顔をデザインする行為です。 あなたは明日、誰の顔を思い浮かべてキッチンに立ちますか?その想像力のなかにこそ、ミシュランの星よりも輝く、あなただけの「料理の真実」があるのです。